顧客ポートフォリオマネジメント(1)

 事業をやっていて、“集客” って大事だということは誰もがわかっていますよね。そして、それが一番難しい、と感じている人も多いと思います。

大事だと思っているけど、思ったようにはいかないなぁ、という人も少なくないでしょう。まあ、私もその一人です。

 とにかく、新規顧客をどんどん集めて、、、と思っている人、それでうまくいくでしょうか?

顧客は多いほうが良いから、とにかく誰でも増やすのが良いでしょうか?

たぶん違いますね。

どんな顧客がどのくらい居てくれるのが一番良いのか、考えたことはありますか?

そして、いまその状態になっているのか、近づいているのか、確認したことはありますか?

 ここでは、どんな顧客が、どのくらい増えるのが良いのか、そしてそのためにどんなことをしていくのが良いのか、ということについて考えるための顧客管理の手法、

『顧客ポートフォリオマネジメント』(Customer Portfolio Management、以下CPM)

について紹介したいと思います。

(長い内容なので、いくつかの記事に分けて書いています。この記事は、CPMの内容に入る手前の説明となっています。)

目次

『ポートフォリオ』とは

 まず、『顧客ポートフォリオ』というものについてイメージを共有しておきたいのですが、その前に、『ポートフォリオ』という言葉について説明します。

 英語の”ポートフォリオ(Portfolio)”の語源は、イタリア語のPortafoglio(ポルタフォリオ)という単語です。Portaは『運ぶ』『支える』『保つ』という意味、Foglioは『紙』『紙幣』のことです。なので、「紙幣を持ち歩く」という組み合わせで、そういった『札入れ』のことを指す単語です。

そこから、英語のPortfolio という単語になり、日本語に直訳すると「紙ばさみ」「折りかばん」「書類入れ」というような意味になります。

つまり、「書類を運ぶための入れもの」のことを表し、個々の書類を別々に扱うのではなく、全部をひとまとめにして、ひとつのかたまりとして扱うというニュアンスを持っています。

業界別『ポートフォリオ』の意味

 実際に『ポートフォリオ』という言葉を使う業界の代表例として、以下の3つが挙げられます。

1) クリエイティブ系


 自分の事業での実績や力量を評価してもらうために作成する資料で、これまで作成した作品やデザインなどをまとめて紹介するものです。

おそらく、『ポートフォリオ』という単語を聞いたことがある人が認識しているのは、これを指すことが多いのではないでしょうか。

 フリーランスのクリエイターが営業資料として作成したり、就職・転職用に用意したり、デザイン会社が会社案内の補完資料として作成したりと、さまざまなタイプがあります。

2) 金融系


金融・投資用語としての『ポートフォリオ』は、現金、預金、株式、債券、不動産など、投資家が保有している金融商品の一覧や、その組み合わせの内容を指しています。

 投資家はリスク管理のために自らの資産を複数の金融商品として分散することがあります。

自分の資産を1つに投資すると、それがダメになったときに大きなダメージを受けます。なので、さまざまな種類の金融商品に分けて投資することで、リスクヘッジを図っているのです。

 この投資を分散させること、またはその分散の組み合わせのことを、金融・投資分野ではポートフォリオと呼んでいます。

3) 教育系


 教育用語としての『ポートフォリオ』は、教育における個人評価ツール(=パーソナルポートフォリオ)を指しています。

 これは、生徒たちが学習過程で残したレポートや試験用紙、活動の様子を残した動画や写真などを、ファイルに入れて保存する評価方法です。

従来の科目テストや知力テストだけでは測れない、個人能力の総合的な学習評価方法(質的評価方法)とされ、学校教育だけではなく自己啓発など、さまざまな教育分野で取り入れられています。

 以上、『ポートフォリオ』という単語が使われる代表的な業界、シーンを紹介しましたが、なんとなくイメージできたでしょうか?

要するに、『いろんな要素のものをひとまとめにしたもの』というイメージですが、ここでお伝えしたいことは、そのマネジメント(管理)についてです。

なので、まとめたもの、というだけではなく、その内容や構成要素のバランスなどを把握してコントロールする、というニュアンスも含みます。

 上の3つの例だと、金融系のポートフォリオでのニュアンスが近いかもしれません。

顧客ポートフォリオマネジメント(CPM)

 ポートフォリオのイメージが掴めたところで、ここでいう『顧客ポートフォリオ』についての認識を共有しておきたいと思います。

『顧客ポートフォリオ』とは、顧客をいくつかの種類に分類し、それをまとめて分析できるようにデータ化したものです(分類の仕方については後述します)。

そして、CPMは、そのデータを管理し、分析する手法です。

 私が、このCPMと最初に出会って意識したのは、『社長が知らない秘密の仕組み』(橋本陽輔:著、ビジネス社)という本を読んだときです。

 この本で、CPMの理論について詳しく解説していたのですが、この理論は、もともと「やずや」という会社でつくられたものでした。

「やずや」は、「やずやの香酢」や「にんにく卵黄」などの健康食品で有名な通販会社なので、ご存知のかたも多いと思います。

 その理論を、本にまとめ出版されています。そして、多くの企業がこれを取り入れ実践して成果を出しているようです。

 この本は、2008年に出版されているので、もう何年も経っていますが、いまでも通用するし、業種問わず応用可能で、非常に実践むきと感じているので、私がお手伝いしている事業者さんたちにも、紹介しています。

と、いうことで、ここからCPM理論の中身について紹介しますが、基本的にこの本に書かれている内容を参考にしています。

使う単語も、この本で使われている言葉を引用させていただいている部分があります。

なので、もし、興味を持った、もっと深く理解したい、という人がいたら、ぜひこの本『社長が知らない秘密の仕組み』(橋本陽輔:著、ビジネス社)を読んでみてください!

新規顧客か既存顧客か

 ビジネス(自身の商品やサービスを提供すること)において大切なことは、

・ 新規顧客を増やすこと
・ 既存顧客を守ること

です。

 あなたのビジネスで、新規顧客がいつもだいたいどのくらい居て、既存顧客がどのくらいリピートしてくれているか、把握していますか?

もし、新規顧客はそこそこ居るけど、リピート客がほとんど居なかったら、どうでしょう?

お客さんは、一回は買ってくれるけど、すぐ離れていっている、ということが疑われます。

 言うなれば、穴のあいたバケツに水を注いでいるようなものです。新たに水を注いでも、穴からどんどん漏れていくので、バケツに水は溜まりませんね。

そういう場合、どうしますか? 取るべき手段として、

① 漏れる分だけ、もっと注ぐ水を増やす(足りない分だけもっと新規顧客を獲得する)
② バケツの穴をふさぎ、水が漏れるのをふせぐ(既存客の離脱をふせぐ)

の2つが考えられます。

この2つのどちらが良いと思いますか?

①の場合、常に新規を注ぎ込まないといけませんから、かなり疲弊してしまいそうですね。
いつまでも続かないと思います。

そして、新規顧客獲得は、既存顧客の維持より難しい、というデータもあります(ここでは、その詳細については割愛します)。

従来のやりかた

 新規顧客獲得が難しいなら、既存顧客の流出をふせがないといけません(もちろん、新規顧客獲得も必要ですが)。

そこで、これまでいろんな手法が試されてきました。その一例を紹介します。

・ RFM分析
これは、以下の3つの指標で顧客の購買行動に得点をつけ、上位顧客を抽出しアプローチする手法です。

R=Recency:直近でいつ買ったか(最終購入日)
F=Frequency:どれくらいの頻度で購入するのか(累積利用回数)
M=Monetary:どれくらいの金額を購入したか(累積購入金額)

・ ABC分析(Activity Based Costing)
これは、売上高、購入数などを高い順に並べ、累積構成比と併せてパレート図で可視化する手法で、上位の顧客への商品販促やサービスの展開をする際に、顧客を割り出すポピュラーな方法です。


例)

 ただ、これらの方法では、うまくいかない(既存顧客を維持できない、むしろ減っていく)可能性が高い、と言われています。

その理由、すなわちこれら従来のやり方の問題点として、

短期的に利益貢献してくれる顧客だけに目がいってしまう

ということが挙げられます。

これを繰り返すと、下位客が離れていくので、対象となる顧客数が徐々に減って、いずれ全体数がゼロに近づくことになってしまいます。

 こうした従来の分析理論とCPM理論の大きな違いは、短期的視点か、長期的視点か、ということです。

では、ここから、CPM理論について紹介したいと思いますが、長くなるので、次の記事:『顧客ポートフォリオマネジメント(2)』 で改めて書いていきます。

まとめ

  • 『顧客ポートフォリオ』とは、顧客をいくつかの種類に分類し、それをまとめて分析できるようにデータ化したもの
  • 新規顧客獲得の前に、既存顧客流出をふせぐのが大切
  • 従来の分析理論・手法は短期的視点に立ったものが多い
  • 長期的な視点に立った手法が必要 = CPM理論

参考文献

『社長が知らない秘密の仕組み』(橋本陽輔:著、ビジネス社)
https://www.business-sha.co.jp/books/category04/item_a000030

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